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生まれる時間をたどって

ずっと使い続けたくなる商品たちは、どういうプロセスを経て出来上がってくるのか。ひとつ一つの過程にはつくり手のどんな気持ちが隠されているのか。いつか誰かに育まれる一品が誕生するまでの軌跡をご紹介します。

Way.3「デザインとは、見極め、伝える技術。」

語り手/代表・市橋人士, 松田剛(元・Hacoa DIRECT STORE販売員)

Hacoaでは毎月第1木曜日に新商品の発表を行うことを定例化しており、いつも多くの方々に心待ちにしていただいています。今回はその商品開発について、10月に登場したIC-PassCaseを例に挙げてご紹介。人気のアイテムが完成するまでに歩んだ紆余曲折の道のりを、お楽しみください。

お客様の声をきっかけに動きだした商品開発。voice

市橋/Hacoaでは、商品アイデアを考えるための期間を特に設けているわけではありません。それぞれのデザイナーは、Hacoaのものづくりの基本となる問題提起(Way.1参照)をベースに、常日頃からアイデアを収集しつつ、時代性などのタイミングに合わせて商品開発へ結びつけます。今回、IC-PassCaseを開発するきっかけとなったのは、お客様のリクエスト。そして、声を拾ったのは、当時HacoaDIRECTSTORE(以下、HDS)の販売員だった松田でした。

松田/お客様から「Suicaなどのパスを入れておくケースが欲しい」という要望をお聞きしたのは、新生活シーズンが近付いていた頃でした。ICタイプのパスケースは、地方ではあまり馴染みがないかもしれませんが、東京など都市部では携帯必需品となっています。さっそく私は、もっと細かな声の収集に取り掛かりました。HDSではお客様と販売員の距離がとても近いので、店頭でのコミュニケーションの中で様々な質問も気軽に行えます。
私はHacoaに入社する以前は、輸入菓子のパッケージデザイナーとして働いていて、部分的なものづくりにしか関わってこなかったんです。そういった理由もあり、商品開発に携わる前に「売り」の現場にて、お客様の気持ちに触れることを目的に、東京勤務を希望。店頭では積極的にアンケートを行いました。

八方美人になってしまったデザイン。trouble

松田/情報収集の結果、お客様からは、「3枚くらい収納できるように」「取り出しやすいのがいい」「中身が見えると良い」などいくつかの具体的な声が聞けました。私は、貴重なお客様の声をできるだけ活かしながら商品を開発することを目指して、商品のスケッチを描き始めました。ノート1冊を潰すくらいたくさん描きましたね。そうしてできあがったスケッチは、本社において試作品化される運びとなりました。

市橋/Hacoaでは、スケッチから図面に落とし込むことはしません。まず、試作品を作り、ブラッシュアップを重ね、商品化へと歩みます。図面を用意せずに試作品を作ることは、図面上の数字やカタチ、大きさなどに捕らわれず、モノの本質を探ることが出来、製造工程に生じるロスの解消や効率化なども再考、熟考できるメリットがあります。

松田/同様に、私のアイデアもかたちとして出来上がってきました。最初に見た時は嬉しかったですね。でも、喜んだのは一瞬だけでした。試作品について本社で行われたディスカッションでは、たくさんの問題点が浮き彫りになっていたんです。

市橋/松田のデザインは八方美人でした。お客様の要望をすべてそのまま盛り込んで使いやすくするつもりが、逆に使いにくい商品へ向かっていました。「3枚入れるための空間が生んだ、過剰な厚み」「木の感触の良さを出すための丸みが感じさせる、鈍重な雰囲気」「中身を見せるための窓が作りだした、冗長な印象」「ストラップを付けるための小さな穴」など、お客様の意見を付加させようとしたいろんな機能が、マイナスの方向に向いていたんです。たくさんのことを詰め込もう、たくさんの機能があると便利だ、そんなふうに思ってスペックを付加し続ける、若さと素直さゆえのありがちな事例にはまり込んでしまっていました。もちろん悪くはありませんが、追及していく方向性を決めかねながら進んでも、答えはいつまでも出せません。彼のスケッチからは大きな方向転換を行うことが求められ、IC-PassCaseの開発作業は本社へと移行しました。

「じゃあ、そのコトをカタチにすればいいんじゃない?」answer

市橋/私の中には「便利こそ不便」という言葉があります。便利だと思うお客様の反対側には、不便だと思うお客様が必ずいる。いろんな機能を付加させることは、実はどちらかのお客様に背を向けることにつながってしまうんです。だから私たちデザイナーは、モノの本質を見抜き、最も必要なことを見極めなければいけないんです。
私は、開発作業を本社にて請負う際に、悩んでいた松田に対してあらためて、「結局、何がしたいの?」と尋ねました。返ってきた言葉は、「木の板でタッチする感覚を楽しんでほしい」「木目の美しさと手触りの良さを伝えたい」という2つのフレーズでした。すごくわかりやすく伝わりました。私は返しました。「じゃあ、そのコトをカタチにすればいいんじゃない?」と。
それから私たちは、あらためて現状の検証を行いました。まずは、3枚のカードを収納する機能について調査を実施。すると、例えばSuicaとPasmoを重ねて使用した場合、誤作動を起こす可能性があることを知り、収納できる枚数は、1枚にすべきだと思いました。そこから、薄さの追求を行いました。また、ストラップについては、「Suicaの役割そのもの」に立ち返りました。言ってみればSuica等は大切な「お金」です。落とす可能性を失くし、安心感を膨らませるデザインとして、ダイレクトに大きなストラップを付け、カードの落下防止機能を目視で確認できようにしました。その他、Suica等はチャージが必要となるので、取り出しやすいようにフックを採用。カードの底にあたる部分には、反りなどによってカードが取り出せなくなった場合を想定し、小さな穴を開ける等の工夫を施しています。

本質を見極めることこそが、お客様を喜ばせる。essence

市橋/様々な課題を、マーケティングとデザインの検証の中で解決していきましたが、特に「薄さの追求」については骨を折りました。今回、IC-PassCaseの開発における薄さの課題は2種類。ひとつ目の「薄さ」は、全体の厚みです。「木でタッチする感覚」がどのくらいの薄さで行う場合に最も心地よいかを強度と機能のバランスを考えながら、0.2mmおきに10種類くらいのサイズを制作して試しました。
もうひとつの「薄さ」は、カードを収納する空間の厚みです。Suicaは定期として使用する際には文字の刻印部分が浮き文字となるため、その厚みを踏まえたデザインを行うことが求められます。約2日間かけて20〜30種類のサンプルを制作し、スムーズに取り出せるギリギリの厚みを狙いました。
商品が完成へもう一歩に近付いたとき、もうひとつ頭を悩ませる課題にぶつかりました。それは、デコレーションという最終仕上げです。角を丸くして可愛さを出すか、凛としたスクエアタイプにするか。これについては、社内でも明確な結果は出せず、思案した結果、お客様に頼る作戦を選びました。HDSの店頭において「あなたはどちらが好きですか?」というお客様参加型の投票イベントを実施したのです。500人以上の方に参加していただけ、結果は、なんと半々。悩ましい結果でありましたが、これもお客様の提示してくれた回答のひとつであると考え、どちらのカタチも用意することにしました。
こうして、紆余曲折を経て、IC-PassCaseは10月に新商品発表へこぎ着けたわけです。おかげさまで、歴代トップレベルの人気商品となり、1カ月半に3度の製造を行っても追いつかないほどのヒット商品となっています。

松田/完成品ができあがってきた時は、まさに感動の一言でしたね。投票イベントに参加していただき、再来店されたお客さんは、とても喜んでくれていました。今回、自分の無力さを知ることになりましたが、自分の課題を見直す機会にもなりました。製造現場での経験をはじめとした、たくさんの自分の「できない部分」に気付くことができました。

市橋/デザインとは伝える技術。たくさんのことを伝えようとすればするほどに伝わらなくなる。伝えるために割り切ること、伝えたいことをシンプルにダイレクトにすることがデザインにおける一番大変な作業です。

松田/いつか私も、本質を突いたお客さんに求められる商品を作れるよう今後も頑張りたいです。

市橋/入社し、初めて、商品企画に携わった彼は、今回のプロセスの中で数えきれない程の質の高い経験を行ったはず。全体を見通せるには時間はかかるかもしれないが、質の良い経験を沢山することで、自分なりのデザインが生まれるはずです。彼は今回の経験が大きな糧になり、持ち前のガッツで大きく育つことと期待しています。

★いかがでしたでしょうか。次回は「商品制作」にスポットを当ててご紹介します。ご期待下さい。
⇒ Way.4「伝統と先進を操るつくり手の現場。」

平林馨(アルバイト・大学4年生)

Hacoaのアルバイト

遮二無二・新人

ガムシャラな表情、壁にぶつかった表情、
腕が上がったことに微笑む表情など。
Hacoaは、がんばる新人のいろんな顔が見られる場所でもあります。日々を一生懸命に積み重ねる彼らの横顔をフォーカス。

「いつかきっと、ここで職人に。」〈前編〉

List.3 HacoaDIRECTSTORE/平林馨(アルバイト・大学4年生)

HacoaDIRECTSTOREの初期メンバーとお聞きしています。

2010年12月のオープンからアルバイトさせてもらっています。私はHacoaフリークなので、HacoaDIRECTSTORE(以下、HDS)で働けるようになった時は本当に嬉しかったですね。思い返せば、最初にHacoaに出会ったのは一昨年のデザイナーズウィークでした。当時、ものつくり大学の2年生だった私は、大学としての出展に参加。その時に、同じく出展していたHacoaのブースで「木製USBメモリ Chocolat」を見て、大きな衝撃を受けたのを覚えています。決して奇抜ではないのに強いインパクトを残すデザインに、とても感動しました。
その時からHacoaのことが忘れられず、常にウェブサイトをチェックするようになり、さらに翌年のゴールデンウィークには両親を引き連れて本社のある福井県へ旅行に行きました。緑溢れる田舎に、ポンと表れる洗練された社屋が印象的でしたね。休日だったため工房は稼働していませんでしたが、機械などを見せてもらいました。感激しまくりでしたよ。

本当に、ものすごいファンなのですね。

はい。だからHDSで販売スタッフを募集についても、当然見逃しませんでした。ウェブサイトで確認すると、すぐさま応募のメールを送りましたよ。ただ、実のところ、私は販売スタッフではなく作り手として応募したんです。Hacoaの商品づくりに関われたらどんなに楽しいだろうと思っていましたから。でも、HDSの店長である岡山さんに言われたんです。「将来、作り手になりたいのなら、ユーザーの声が直接聞ける場所で働くことは、絶対ためになる」と。私は、販売スタッフとしてHDSのオープンから働かせてもらうこととなりました。
最初は大変でしたね。接客については飲食店のアルバイト経験があったので抵抗はありませんでしたが、木の特性や商品、Hacoaの会社についての知識がまるでなかったので、お客様の質問に答えられないことが多かったんです。これではいけないと思い、岡山さんたちに質問したりウェブサイトを見たりして必死で勉強しましたね。HDSには、それぞれのスタッフが気付いたことを書き込んで教え合う共有のノートがあって、それも知識を養うのに役立ちました。

HDSでの印象深い出来事などを教えてください。

特に記憶に残っている出来事が二つあります。ひとつは、あるお客様とのやりとりです。そのお客様は、木製iPhoneケースの角が欠けて修理を申し込んで来られました。けっこう派手に破損していて、欠けた部分もすでに無かったので、元通りに戻すことはできないことがアルバイトの私でも一目見た瞬間にわかりました。できる限りのことはしてあげたいと思い、欠けた部分を丁寧に丁寧に磨いてあげました。それをお客様に渡すと、「ありがとうございます!」と大喜びしてくれたんです。お尋ねしてはいないのでわかりませんが、何か思い出の詰まった大切な品だったのかもしれません。ものに込められる「愛着」について、何かが、ほんの少しだけわかったような気がした出来事でした。

もうひとつの出来事は、東日本大震災の日のことです。あの日は東京で多くの人々が自宅に帰れなかったと聞きますが、私もその一人でした。店内で待機していると岡山さんが「名入れ」に必要となるソフトの使用法を詳しく教えてくれたんです。当時、私は「名入れ」作業に必要なソフトが上手に使えず、私は名入れが苦手でしたから、本当に助かりました。そういう人間関係があることもHacoaのいいところだと気付き、私はひとつの思いをどんどん強くしていったように思います。

★次回では、平林さんが新しいアクションを起こします。抱いている思いの行方は?どうぞお楽しみに!!

⇒ Way.4「伝統と先進を操るつくり手の現場。」

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