1999年 デザインの修得

東京を彷徨う中で、デザインというものに出逢いました。当時は海外からデザイン雑貨商品が多く入って来た頃で、青山界隈には多くの家具屋さんやお洒落な店構えの輸入雑貨セレクトショップが沢山軒を並べていました。欲しくてもお金が無く、買える事は無かったですが、見るだけでワクワクする程に幸せな気分にさせてくれる雑貨に魅了され、吸い込まれるようにお店に入っていったのを思い出します。

そしてこの頃に伝統的漆器と現代の生活スタイルとの間には、大きなズレがあることも痛感します。「このまま伝統漆器にしがみついて伝統を継承するだけでは何も変わらない。自分に足りないモノを探し、足りないモノを埋めたい。そんなモノやコトを産み出せる知識を身に付ける必要がある」と考えていた矢先、その思いを満たしてくれる出会いがありました。国内を代表するインダストリアルデザイナーである川崎和男氏との出会いです。

川崎氏から1年間の講義を受けた事で意識が変わり、自分の向かう方向が決まりました。ファッションとは違うインダストリアルという考え方のデザイン。インテリジェンスなデザイン。働きながら学ぶには厳しい課題の量でしたが、毎週のようにデザインの基礎を学び、知識を身に付けることが楽しくて仕方がありませんでした。

今までデザインの意味など考えもしなかった木地職人が、どのように現状を分析し、何をどう変えるのか。そして、変える事でどうなっていくのか。デザインを習得する過程で、自分の気持ちは高揚し、未来が見え、進むべき道が見えてきました。創造力、改善力、実行力、プレゼン力というたくさんの力も得て、これまでは人前で話す事もままならなかった口下手な職人が、多くの人前でプレゼンまで出来るようになったのです。

デザイン本来の考え方、伝える力が身に付いたことで、自分の中での伝えたい事が明確になり、頭の中で話す内容を組み立てる力が備わり、それらが「自信」に繋がっていって自分自身でも大きく成長したと感じました。

川崎氏から学んだ事は“自分がブレない軸を持つことの重要性”であり、そのことが当時の自分を救い、今のHacoaの理念となりました。この1年の学びがあったからこそ未来を変えられたのだと、今もって感謝する貴重な1年となりました。

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