木・職人・音楽の共通点「不確かなものの愛おしさ」

「木の価値を高める」という共通の想いを持つHacoaとフルタニランバー。
そこにロックバンド「Base Ball Bear」関根史織さんをゲストに迎えた3者対談が実現しました。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

関根史織
1985年生まれ。'06年Base Ball Bearのベーシストとしてデビュー。現在までに9枚のアルバムをリリース。計3回の日本武道館公演を開催。日本でも数少ないチャップマン・スティックの奏者でもある。その演奏を中心にすえたユニット・sticoを、バンドと並行して'18年よりスタート。またこの楽器を発見したのがキング・クリムゾンの映像であるように、プログレッシブ・ロック好きとしても知られている。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

古谷隆明
フルタニランバー代表取締役。石川県金沢市を拠点に、外国材及び国産材を活用した木材流通を行っている。主に建具、家具、内装インテリアなど、生活空間で目に触れる領域への木材を取り扱う。「木の価値を届ける」を企業コンセプトとし、石川県の県木である能登ヒバの新たな価値を創造する「ATENOTE ― 能登ヒバ楽器プロジェクト ―」を主宰。これまでに30点以上の楽器を製作し、数多くのアーティストと連携しながら木の魅力を発信し、林業の振興にも従事している。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

偶然の産物が好き

ーーまずは関根さんと対談していただくお二人に、自己紹介をお願いします。

古谷 僕は石川県のフルタニランバーという会社の代表で、国内外100種類以上の木材を扱ってます。ただ外国材はだんだん手に入りにくくなってきた。一方で日本は木が余っている。だったらもっと国産材を使おう、新しい道を探そう、ということで地元の木である能登ヒバで楽器を作るATENOTEというプロジェクトを始めました。

ーーそしてもうひと方。

前田 Hacoaで広報と企画を担当している前田といいます。私たちは福井県鯖江市にある木製デザイン雑貨ブランドで、伝統工芸「越前漆器」の木地づくりで培った技術を活かし現代の暮らしにあったものづくりを行っています。その製作に欠かせない木材をフルタニランバーさんからも仕入れさせていただいていて。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

古谷 Hacoaには、すてきな木の商品がたくさんあるんです。僕が事務所におじゃまするとき、前田さんとは音楽の話で盛り上がってきたけど(笑)。

前田 そう、古谷さんとは好きな音楽も一致していて。それもあってよりATENOTEの事業にも共感しているんです。
毎年秋に開催しているオープンファクトリーイベント「RENEW」では、ATENOTEを使ったライヴに出演してもらったり、ATENOTEのラインナップにHacoaで製作したカリンバも加えてもらったり。ただの取引先だけにはとどまらない特別な関係性で。
そんな中、ATENOTE企画の延長から「木や職人の魅力って、音楽にも通ずるところがあるんじゃないか?」と話が盛り上がり、今回の対談をさせてもらいました。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

前田 関根さんにオファーしたのはチャップマン・スティックという特殊な楽器を扱っていらっしゃることも1つなのですが、個人的にBase Ball Bear(以下BBB)を17~18年、聴き続けさせていただいていて(笑)。

関根 えー、ありがとうございます!

前田 これよかったら(と木製USBメモリーを差し出す)。

関根 あ、チョコレート型で私のアカウント名も入ってる! めちゃくちゃいい。

前田 これの初代は坂本龍一さんのmore treesからお声がけいただいて、国産杉で作ったこともあります。そこに坂本さんの曲を入れて販売してもらって。

関根 おー。

ーーあの坂本さんともねー。さて、では広い意味で“木”をテーマにお話しいただきたいと思います。関根さん、楽器に関してどのくらい木を意識されてます?

関根 なんとなくのイメージで「指板(指で押さえる部分)はメイプルがいいな」とか「このベースだったらローズかなあ」とか思ってたりはします。

古谷 それは音的に?

関根 あとは触り心地。ローズ指板はしっとりしたかんじ、メイプル指板はちょっと‥乾いたかんじかもしれない。

ーー雑貨も手触りが大事そうですね?

前田 そこは一番こだわってる所の一つです。Hacoaの商品はどれも職人が紙やすりで磨いて仕上げてるんですけどね。

ーー機械ではなく手作業で?

前田 ある程度のところまでは機械も使いますけど、最後は手作業で。よく触られる部分は角を丸く、あんまり触られない部分は磨き過ぎるとエッジがかっこ悪くなるので控えめにして。

関根 おー。

古谷 選んでもらうには見た目が大事だし、ぬくもりとかも感じてもらわないといけない。

関根 見た目は本当に大事ですよね。自分もチャップマン・スティックに関しては完全に見た目から。YouTubeでキングクリムゾンのトニー・レヴィンが弾いてる映像を見て、その禍々しいオーラに「なんてかっこいいんだろう!」って思ったんです(笑)。だからこの取材のお話をいただいたとき、木の清々しいイメージと合うのかなあ? って思ったんですが。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

古谷 ぜんぜん大丈夫です! 木も“清々しい”だけじゃなくいろんなイメージがあると思います。深い樹海とかにはそれこそ“禍々しさ”もあったりするだろうし。

前田 たとえ同じ木でも木目の見せ方でぜんぜん印象は変わってきますしね。

古谷 これまで楽器で貴重とされてきた木目にしてもね。

ーー鳥の目のような模様が散りばめられたバーズアイ・メイプルとか。

古谷 あれって木の病気の部分なんですよ。

関根 うわーっ。

古谷 楽器ではよく使われる節の部分も、木材屋では事前に排除されかねない部分で。

関根 へー、私なんかはそういう偶然の産物みたいのが好きなんですけどね。

古谷 能登ヒバも、もともと楽器には使われてなかった木なんですよ。

ーー能登ヒバ製ベース、弾いてみます?

関根 あ、軽! これはみんな思うだろうな。すっごい触り心地がいい! 木目も本当にきれい。こういうのって木によって違いますよねー。チャップマン・スティックもときどき中古品が出るんです。そうすると、みんな私が弾いてることは知ってるんで「あそこの楽器屋さんにあるよ」って連絡がくる(笑)。そう言われると「じゃ、1回試奏しに行ってみるか」ってなって、自分のも持っていって比べてみるんです。そうするといつも、自分のやつがずば抜けて重いことに気づくんですね。重いけど音は甘い。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

古谷 重いと甘い音がするのかなあー。なんせ木って20万種類ぐらいあるんで‥。

関根 20万!

古谷 そのうちトーンウッド(楽器に適した木)は何10種。それがいま枯渇してきてる。だからビンテージ楽器に行くのもありだけど、新たな木で作ることもしてほしい。そうしないと職人さんも育たないですから。

関根 私はたまに、工房に遊びに行って楽器が作られてるのを見てたりするんです。木と向かい合ってる姿を見たりすると「職人さん、かっこいー!」ってなったりしながら(笑)。

前田 Hacoaの職人も木との闘いです。木は生きてる素材なので乾燥すると収縮するし、湿気が多いと膨張する。梅雨時期とかは特に変形したりしますね。

関根 梅雨は私たちプレイヤーにとってもネックの反りとかがありますからねー。

古谷 そもそも木へんに反ると書いて板ですから。

ーーあ、なるほどー。

古谷 というのを言い訳にしてたりして(笑)。

関根 いやー、でも愛おしいですよ。木は生きてる。私はチャップマン・スティックの伝道師みたいに言われますけど、ただ好きなだけ。こういう機会に1人でも多くの方に知ってもらえたらありがたいです。

木と楽曲、“変わり続けていくもの”に魅力を感じる

ーーちなみに前田さんがこの楽器を弾く関根さんの姿を見たのは?

前田 とあるツアーで披露していた「Transfer Girl」という楽曲が印象的でした。もともとギター×2・ドラムス・ベースの4人でやる前提の曲を、関根さんがベースとリード・ギターをチャップマンで1人でやっていた。で、「あの曲がこうなるんだ!」って。

関根 それ、見ていただいてて嬉しいです。チャップマンってギターやベースと比べるとセオリーが出来上がってないぶん自由なんですね。

ーーたしかにYouTubeで検索すると、人によって弾き方も様々でした。

関根 そうなんです。そのぶん私も習得するのにかなり時間がかかりました。でもある日「これは自分なりの使い方をしていいんだ。セオリーは自分で作ってしまえばいいんだ」と気づいて、弾けるようになったんです。それをBBBでやってみた瞬間を見ていただいた、と。

前田 BBBってライヴごとにアレンジが変わってたりする。よく演奏を重ねることで「曲が育っていく」と表現されてますよね? それって使っていくうちに経年変化していく木製品とも似ている。最初が完成じゃなく、使い(演奏し)続けることで仕上がっていく。僕はそこを楽しみにBBBを見に行くかんじなんです。

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

関根 それはありがたいですね。木も楽器も人間もどんどん成長する。それが多少なりとも曲に反映するといいな、って思いながらやっているので。

古谷 経年すると愛おしさも出てきますしね。ついた傷までもが。

関根 ほんとそうですよね。ロックバンドの良さもぬくもりだったり歪さだったり。そこは木と近い。

古谷 そもそも完璧な木っていうのもないし。完璧だと思うのは人の心で。

前田 僕は “変わり続けていくもの”に魅力を感じるようで、だから木製品とBBBに同じ“好き”を見出しているんだと思います。色褪せない、というのは昔が良かったみたいでなんか違うな、と。褪せるからこそ生まれる魅力がある。変化していった現在地が一番好きなんです。

ーーその都度の現在地、なんですね。

不確かなものが愛おしい

関根 新しい部分を追いかけてくださるのは嬉しいです。キング・クリムゾンの例をとっても彼らは1969年にデビューして1974年に一度解散してしまうんです。ところが1980年代にメンバーを入れ替えて復活します。ファンは大歓喜したんですけど、新しいキング・クリムゾンはそれまでの音楽性とは全然違う方向だった為、賛否両論がありました。どちらかと言うと否の方が多い印象です。しかしその時代に使われていたチャップマン・スティックを見て、私の人生は変わりました。

ーー人生を変えた1冊ではなく1本(笑)。

前田 チャップマン・スティックを使うようになってから活動の幅も広げられましたよね。sticoもですし、いろんなフィールドで活躍されているのを見てるとこちらも元気をもらえます。せっかくなのでもう1個、BBBの好きなところ言っていいですか?

関根 はい(笑)。

前田 同期(事前に録音された音源)を使わず、ギター、ドラム、ベースの「人力」でライヴをやってるところも好きなんです。磨きぬいた技術だけで音をつくる、そこに「職人」っぽさを感じていて。

関根 3人だけで鳴らせる音、というのもライヴで大事にしてる部分なんです。雑味もあるかもしれないけど、そこがいい。

前田 Hacoaの商品も同じで職人が手作業で作っている。私たちの商品ってシンプルで要素を削ぎ落としたデザインが多いんですけど、触れてみると手作業のあとがわかる。

古谷 その木を切る人もいるわけですからね。そこは絶対デジタル化できない。

前田 そもそも木目が1つひとつ違うこともファジー(=曖昧なもの)だし。

関根 ファジーって言葉大好き(笑)。

前田 人の手や木目、そういった不確かなものに心地良さが宿るんだと思います。

関根 そう想ったら、急にいろんなことが愛おしいですね。

インタビュー/構成: 今津 甲
写真: skyward photo film
https://skywardphotofilm.com/index.html

Base Ball Bear 関根史織 × フルタニランバー × Hacoa ロックと木とモノづくり 3者対談

Base Ball Bear
https://www.baseballbear.com/

stico
https://sticoofficial.com/

ATENOTE(フルタニランバー)
https://atenote.com/

【Information】Base Ball Bear


■リリース情報
2026.1.28 Release
Mini Album『Lyrical Tattoo』
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-66118.html


■公演情報
“Base Ball Bear Tour 「Lyrical Tattoo」”
「新春ベースボールベアーちゃん祭り2026」
詳細:https://www.baseballbear.com/live/

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