2010年 東京でしか出来ないものづくり

都内直営店を2010年の12月にオープンする事が決まった。東京のお店を任せる人選をしなくてはいけない。

デザイナーとして採用した入社2年の若者に東京のお店と業務を任せる事を決めた。ハコアのデザイナーはパソコンの前で図面を描いている訳では無く、現場で製品の試作を繰り返す。そんな仕事は東京では出来ない。彼に東京へ行く辞令を伝え、東京赴任を頼むと、「自分からものづくりを取らないでください」と、涙ながらに断られた。

彼には、「東京でしか出来ないものづくりがある。ハコアを東京で大きくする事だ。君にはその能力が有り、君にしか出来ないものづくりだ」と、促した。

しかし、彼の涙や悩みを聞いた他の社員が、社長は強引すぎると反旗が立った。事が大きく変わる時は、必ず溝が出来るものだ。会社の都合と個人の都合が分かり合えない限りは、摩擦が起きても仕方が無い。

彼は、顔立ちも良く、朗らかで明るい。何よりも周りを良く見て、世話も出来る。いつも誰かが彼の周りに集まる。とにかく行儀の良い好青年で、親のしつけがどれだけ良かったのかと聞いてみたい程だった。

そのような性格もあり、東京に行く事を理解し、了承してくれた。

2010年 東京でしか出来ないものづくり

しかし、反旗を振り揚げた者は、一旦揚げた反旗を早々に降ろす事は無かった。彼が東京に行った後もしばらくは反乱的な状況が続いていた事で、私は、会社がひとつになる為の詩を書き、皆を集め、朗読した。

書いた詩は、自分が山を超え、東京に向かう物語。その中で、歩いて行くのは大変だろうと自転車というものがあると自転車を与える老人に出逢う。しかし与えられた自転車はタイヤと骨組みしかなかった。ひとつひとつパーツを見付け、取り付けて行く。そのパーツを社員ひとりひとりに見立て、そのパーツの役割や重要性を説明し、皆で漕がないと山は越えられないといった内容だ。

2010年 東京でしか出来ないものづくり

その最後に東京に行く若者をヘッドライトに見立てた。人は明るい所に集まるものだ。君にはその明るさと人を幸せな気持ちにするオーラがある。そのオーラを放ち、人を集め、人と輪を作り、仕事をしなさい、と。

君のように若く、明るく、人が集まるような者が東京で成功する。東京で成功するには人を集め、協力して貰える力が無ければ、成功は無い。

若い頃は若いんだから頑張れと何でも教えてくれたり、利害無く協力してくれる。それは、私の経験の中でも確信があった事だと、伝えた。

詩の朗読の後は、社員が涙を流し、気持ちが一体となり、東京の初号店の準備に邁進できる事になった。

彼は自分が見立てた通り、東京でハコアを大きく広めた。常に彼に協力する人が現れ、彼と一緒に仕事をしたいという人が多く集まった。存在感も大きく、彼への期待感と信頼感の高さがハコアの成長に繋がった。社長の私が出来ない事を若さと自分の能力にて僅か5年で作り上げた。


事が大きく変わる時は、どうしても摩擦は起きてしまいます。摩擦が起きないように用心していても、人と関わっている限りは、それぞれの想いや都合があるから仕方が無いと思うしかないものです。特に若い頃は、とにかく疑問を持ち、自分の想いと違えば、反抗的になる事は多いものです。自分の若い頃もそうでした。ただ、疑問に思い、問い掛けても「黙って言われる事をやれ」と頭から抑えられる事が当然でした。

何の説明も説得も無く、言われるままにして、後でそうだったのかと気付くものでしたが、それは昔の人が言う話ですね。今の若者の間では、多くの情報が飛び交い、豊富な情報の中で多くの選択肢があります。時間の軸も私達の若い頃とは全く違っていると思います。そんな若者の疑問には丁寧に説明、納得させる必要があります。

その為にも経営者は、情報収集を怠らず、今の時代の言葉で、どのように伝えて行くかを考える必要があるのだろうと思います。芽が出て、根を付かせる為のマネージメントはハコア塾でお話が出来ればと思います。

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