1994年 師匠からの格言
私がこの世界に入ったのは25歳の時で、それまではプラスチックの成形技師だった。妻の実家が漆器の木地屋をしており、結婚した時に「後を継がないか」と誘われたが、妻の実家からお金を貰って生活するなんてあり得ないと考えその時は断った。しかし、それからも何度か工房に遊びに行っているうちに、自分の手で作り積み上げられていく木地の美しさにいつしか心を惹かれるようになった。一度は断った手前もあったため、改めて頭を下げて入門した。
それからの厳しい職人の世界で師匠から受けた数々の言葉の中で、今も心に残る格言です。
職人は時間を大切にせえよ
この言葉は、私が義父である師匠に頭を下げ、「3年だけ飯を食わせて下さい」と弟子入りした時に伝えられた言葉。それからの27年間、今に至るまで、限られた時間をどのように使うか、人より多くの時間をどうやって手に入れるかを常に考えています。
職人は段取り八分
何事も上手くいくかいかないかは、段取り次第という意味。準備に時間を掛ければいいという訳では無く、仕事をスムーズに進める為の準備を怠らない事。次の日の仕事をイメージトレーニングしながら寝る癖が付き、思いのままの成功に繋がります。
言うても分らん!見て覚えろ!
仕事を習っている時、上手なやり方を聞くといつも言われた言葉。理不尽だと嘆くときもありましたが、コツを掴む為にもじっくりと「見て考える事」が必要だという事に気付くのは、いつも出来るようになってから。百聞は一見に如かずのことわざの通り、体感する事で体が覚える。経験する事の大事さを今も優先しています。
この世界に入る際に覚悟した事は、絶対に辞めないこと。師匠が義父であった事で甘やかされるだろうと思ったが逆にかなり厳しく、理不尽に思う事も数え切れず。何度も逃げ出したいと思ったが、「辞めれば費やした時間を無駄にする。我慢する事も修行」と心で呟き、最善を探り続けて来ました。
木地職人になり、仕事の仕方を習い、想像する力、集中する力、我慢や辛抱、根気強さ、と様々な事柄が「型」として身に付き、人として成長したと実感します。今は経営者という立場にありますが、職人時代の教えがビジネスにも生きています。