2012年 地方創生としてのモデル

東京にお店を持つ事で、「東京のお店でハコアの商品を見て、こんな商品を作ってみたい。ハコアで働きたい」と志願し、福井まで来る若者が急増して来た。

木―ボードやUSBメモリ、携帯電話のカバーと、伝統の技術を用いて、木という素材で数々の商品を作っている事が話題になっていた事もあり、かっこいい、時代に合っている、作ってみたいという志望動機が多くあり、履歴書を送って来たり、電話で問い合わせがあったりと、多い時には年間100人を超える程だった。

2012年 地方創生としてのモデル

そのように志願して来て貰うと凄く嬉しく、全員採用したい思いではあったが、都会の人が田舎で生活して行くのは厳しい。コンビニも無い、車の免許に加えて車を買わないと通勤も出来ない。ハコアの本社は冬になると大雪が降るので、大雪の中を通勤しなくてはいけない。田舎と都会では生活するスタイルが違うので、それなりに覚悟を持った若者を採用せざる得なかった事は残念。

何人かの若者が、都会からハコアで働く為に移住するようになり、話題にもなって来た頃、若者が次々と地方へ移住してくる話を聞かせて欲しいと、経済産業省の人が訪れた。様々な質問がある中で、「どうして地元の人はこの伝統工芸の世界に就かないのですか」と不思議がられた。

その答えは明確で、後継者がいない、子が親の仕事を継がない理由には、伝統産業に携わる親に原因があると思う。子供は親の仕事を見ている。小さい頃から自分の仕事が儲からない、辛い、辞めたい、こんな仕事は継がなくていいと、嘆いている中で子供は育って来てる事は多い。

商売は大変な事もあるけれど、自分で時間をコントロール出来るし、自分の考え方で方向性も決められる良い職業だと子供に伝えていれば、当然に子供も親の仕事に憧れる。しかし、いつもいつも嘆いていたら、その仕事に就くわけが無い。

逆に都会で会社勤めの中で育った子供達は親の仕事を見ていない。見たくとも見れない。だから、親は勉強して、好きな仕事に就きなさいと伝え、子はその教えの通りに好きな仕事を見付ける。そんな都会の家庭で育った若者がハコアで働きたいと言い、田舎では仕事が無い、未来が無いと思う子供は都会に行く。

この現象を食い止めるには、田舎の魅力や田舎でしか出来ないものづくりの魅力を伝え、拡げるしかないと思います、と答えた。

2012年 地方創生としてのモデル

更に「社長は海外を良く知っているようだが、ハコアは海外で商品を売らないのか」と、海外販売への質問があった。これまでも、今も海外との取引はある。海外からの注文もあり、商品の輸出も行っているが、海外の展示会に出たり、お店を出すというのは機会と力があれば、挑戦をしてみたいが、今は無理。海外に行くには時間もお金も掛かる。国内で足元を固め、余力があっての海外だと思っている。

国は海外の販路開拓、展示会出展の為に補助金を用意し、海外での販売を促進している。補助金があるから海外の展示会に出て、海外の取引先を見付けられるかもと思っているのかも知れないが、大抵の中小企業のメーカーはそんな「犬も棒に当る」ような事は少ない。

貿易の商社や行政を通し、現地のバイヤーや専門家を用意した上で海外の販路開拓を促進しないと結果が出ない。結果が出ない限りは資金も尽きて、辞めてしまう事になる。補助金も無駄になっているんじゃないだろうかと思う。

そんな大きなお金を補助金に使うならば、ものづくりを題材にした月9のようなトレンディードラマを作って、ものづくりの魅力を高めて、ものづくりに携わる人を増やし、国内の需要を高める施策を作ってくれないかと提案した。地元・鯖江には眼鏡も漆器も繊維もある。

沢山のドラマがあり、ものづくりに携わる情熱をドラマの中で感動的なものとして、若者が憧れる職業にして欲しいと頼んだ。

2012年 地方創生としてのモデル


何年か後にこの担当者からドラマを作りますと連絡がありました。輪島の漆器を舞台にしたNHK朝ドラの「まれ」でした。それが分かった時はなんで越前漆器じゃないのと嘆きましたが・・・。

「地方創生」という言葉は、2014年の第二次安部内閣が誕生し、掲げた政策になりました。人口減少と超高齢化という国が直面する問題に対して、地方の力を高め、地方を創生しようという政策を行うためのヒアリングだったのだろうと思います。

ハコアでは毎年のように、県外から本社のある鯖江に移住し働く若者を受け入れています。また、毎年のようにインターンシップの大学生を受け入れ、ものづくりの楽しさを伝え、地方が元気になる為、地方の魅力を伝える使命を抱き未来を築いています。その事で地元の魅力も伝える事が出来、地方の活性化にも繋がると信じています。

ものづくりに興味を持ち、少し関わっただけでも関心は深まり、愛着が生まれます。移住が2、3年くらいの短期間であっても、身に付けた技術や情熱は、きっと日本の未来のものづくりを支え、拡げていってくれる事と期待しています。

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