2012年 石鉄木の素材を使った箱づくり

東京・丸の内に出店を決め、契約を進める中で、新しいお店のコンセプトを創り出していく。一等地でお店を構えるのだからと、意地と気合も入った。

東京直営1号店としてオープンした2k540店は、名入れというサービスでお客様と感動、喜びを共有するお店づくりを行い、成功した。この一等地ではどのような魅せ方が良いのだろうかと、質を上げる為の模索を始めた。

まずは、商品をどのように魅せるか。木という素材が尊く、美しく見えるにはどうしたら良いかを探す為に、色々な素材の上に商品を置いていった。その中で木が優しく見え、質を引き立たせてくれるのがコンクリートだった。

割れたコンクリートの上に置く事で、木の素朴さが引き立ち、美しく感じられた。お店全体は、モルタルで仕上げようと決めた。日本の職人の店として、壁をモルタル仕上げにする事には理由があった。モルタルは、コンクリートに用いられる砂利が無い素材を鏝で薄く伸ばし、仕上げる左官技。

日本気質と言われる繊細な技術は海外には無く、オープンした後に海外の建築士がお店の壁を観て、「どのような素材なのか、どのように塗るのか」と、よく質問されたりもした。

2012年 石鉄木の素材を使った箱づくり

2012年 石鉄木の素材を使った箱づくり

棚の支柱は黒皮付(※1)の鉄素材の風合いとワイルド感をさり気なく細やかに使用。棚板は様々な素材から栗材を選択した。栗は、反りや収縮が激しい木材で、私達が作る繊細な商品の材料には向かない。しかし、目は荒々しくワイルドで、エージング(経年変化)がとても美しい。

荒々しい木目の上に私達の小さな商品を置く事で、繊細さが際立った。これまで高級ホテルの内装、備品材として提案し、数多く採用された。取り扱う多くの木の中で、とても好きな木のひとつ。

栗は、桃栗三年柿八年と言われるように、三年で実が成る早実の木でもある。お店も早く実を付けて欲しいという想いで「げんかつぎ」にもした。荒々しい木目を美しく映し出す為にも電灯色の照明を選んだ。照明は数ある種類や明るさから、自分達のレイアウトに合わせ、自由に移動できるスポット式にした。

堅く冷たそうなモルタル塗りの空間の中、電球色の温かな光が木という天然素材を照らし、人々に安らぎを与える。素材から徹底的に拘って、そんな安らぎの空間づくりを目指した。お店は人が集まる空間。その空間にどのような+αを埋め込むかは、Hacoaの考え方。そのコンセプトを基にお店の設計を行って来た。

※1 黒皮とは、鉄を約1000℃に加熱して圧延する熱間圧延の後に常温に冷える時にできる黒錆で、この黒錆を磨いて取り除かないナチュラルな鉄素材の事を黒皮付という。


一流を目指すには一流を知らないと一流には成れない。私は運よく多くの外資系ホテルの建設に携らせて頂く立場で、一流が選ぶ素材を使った一流の方々の仕事を間近で見て来れました。その経験を自社のお店に反映出来るとは思ってもみなかったのですが、運良くその機会を与えられ、自社の未来を創る為にも妥協をせず、素材を見極め組み合わせたお店の設計ができました。

栗を選んだ後に何処で育った栗を使うかと考えた時に、東日本大震災の被災地に少しでも役に立てればと思い、東北の栗を用いた材を注文しました。被災した東北の経済に少しでも役に立ち、その事をお客さんに伝える事で被災地に目を向け、自分達に出来る事を考える機会になればと思った選別です。

後に全国に展開するハコア・ダイレクトストアは全て、石鉄木という素材を使い、温かな電球色で演出するスタイルに統一し、来られたお客様は、お店の雰囲気でハコアのお店だと認識出来るように仕上げています。お店は会社の顔ですからしっかりと門構えを行い、自分達の想いを伝えられる場にするべきだと考えます。

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