2015年 観光地での難しさ

一等地以外にも観光地からの出店依頼がいくつかあった中で、横浜赤レンガ倉庫の担当者の方からは、1号店をオープンした頃から毎年のようにお誘いを受けていた。

横浜みなとみらい地区は、ビルの内装やテナントの立ち上げの依頼を請け、延べ3か月以上は住んでいた。馴染み深いと思っていた街だったが、これまで現場とホテルの往復しかしていなく、観光地に足を運ぶ事が無かった。

2015年 観光地での難しさ

横浜赤レンガ倉庫にも行った事が無かった。初めて声が掛かった際に情緒豊かな港町を隅々まで歩いた。湾岸に拡がる都市と大型船の汽笛が潮風に乗り、遠くに聞こえる。ここに住みたいと思う憧れが湧き出る情緒豊かな街だったんだと、のんびりと歩いているうちに、出店してみようかと心を動かされた。

街を散策し、赤レンガ倉庫に辿り着くと、多くの人が訪れていた。倉庫内は様々なお店が軒を並べ、それほど値が高くない雑貨が多く、観光のお土産という商品を販売するお店が多かった。ハコアでは無理かなと思い、その時は出店依頼を断った。

次の年もお誘いを請けたが、断った。理由は、観光地に来る人々は旅を楽しむのであって、ハコアの商品は、お土産として購入するには値が張り、購入に至らないと判断し、お断りをした。

本音は、重要保存物の赤レンガの壁面を一定の面積は覆ってはいけないという設計規定があり、それに困った。それは、1911年の明治時代から歴史を刻んできた赤レンガという素材感がとてつもなく強く、木の素材がチープに見え、レンガに負けてしまうような恐怖感が自分の中にあった。

ハコアの商品をレンガと照らし合わせてみても、歴史を刻んだ本物という素材を目の前にし、負けると自覚した時の恐怖感は自分の中で大きな不安になった。

しかし、リーシング担当の方は諦めず、次の年もハコアにふさわしい区画を用意し、出直して来てくれた。ハコアに対する情熱、執念に心を打たれ、挑戦してみようかと出店契約を結ぶ事にした。

出店するとなると、丸の内ビジネス街とは違った空気感を作らなくてはいけないと強く感じた。どうすれば私達の商品がレンガの前に浮き立つのか。レンガに負けない存在感を出す為にどのような空気感を作るべきなのかと、赤レンガ倉庫に何度も通い、レンガの前に商品を置き、レイアウトのスケッチを幾度となく描いた。

それほどに苦労を重ね、設計し作り込んだお店は、その後にも無い。これまでに立ち上げてきたお店の中で一番に思い入れが深いお店になっている。

設計が仕上がり、内装工事が進んで行くと、赤レンガの壁面と棚、什器がハコアらしさの良い雰囲気を漂わせてくれた。高揚感は高まり、スタッフ達と共に毎晩遅くまで、オープンまでの準備を細かな部分まで仕上げて行った。

2015年 観光地での難しさ

2015年 観光地での難しさ

自信を持って、お店をオープンすると、沢山のカップルのお客さんに恵まれた。しかし、楽しそうに話ながらお店を隈なく歩くけれど、購入には至らない。館内にある沢山のお店を散策するひと時にあった。オープンに合わせ用意した赤レンガ限定商品は、注目はされたが他のお土産品には負けてしまっていた。観光地という激戦地の戦場に立っている事を実感した。

この劣勢を打開する為にも、様々な苦労を重ねた。赤レンガ倉庫の他のお店の方々とのコラボ商品を作ったりもした。観光に来たお客さんに、ハコアがある事を知って貰う為に桜木町駅でチラシの配布を何度も行った。

遠くから来た方々にも覚えていて貰えるようにリーフレットを作り、配布したりもした。更にみなとみらい地区にあるタワーマンションに住む住民の方々にもDMをポスティングし、地元の人達の取り込みを行い、集客と周知に全力を重ねた1年になった。


丸の内では苦労せずとも売り上げを伸ばしていましたが、郊外の観光地に出店した1年目は、本当に苦労を重ね続けました。その甲斐もあり、翌年からは商品の売り上げも上がりました。

赤レンガ倉庫の空間の中での穏やかな心地よいお店づくりは、遠方から観光に来たお客様に良い印象を残し、何度も足を運んで頂けるお店になったと実感しています。それは、いつの時も楽しそうに業務をしているスタッフ達と共に目指したお店づくりが、そうした印象を残したのだと思います。

全国のお店に来店されるお客様から「横浜赤レンガ倉庫に行ったらハコアにも寄って来るよ」「横浜赤レンガでハコアに行ってきたよ」と言っていただけることも多くなりました。今では横浜赤レンガ倉庫店はハコア全店のインフォメーション機能も備え、ハコア全店でも5本の指に入る繁盛店となりました。

オープンから6年の間、お店に足を運ぶ度に良い設計をしたなあとしみじみとお店を眺めます。近年ビジネス界でもD2C(※)というビジネス・モデルが話題に上りますが、この赤レンガ倉庫店のハコアが最初にそうしたモデルを描き始めた時だと考えています。

※D2C(Direct to Consumer)とは
「共感を生むストーリー」「顧客体験」「ものづくりの背景」「作り手の想い」「語りたくなるブランド」といったキーワードを含み、自ら企画、生産した商品を広告代理店や小売店(他社)を挟まず、顧客とダイレクトに取引を行う企業の価値観を背景にしたビジネスモデル

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