2016年 いつかは銀座

商売を行っている人達の中で「いつかは銀座」という言葉がある。
銀座という界隈は、日本の商業地の中でも格式高く、華やかなイメージがあって商売の頂きである。華やかな中にはドラマがあり、楽しさが生まれ、別世界別次元の中で理想の商いが行えそうな妄想がある。

商いをしている私達にとっては、憧れのステージであり、そのステージで挑戦したいという想いが「いつかは銀座」の言葉になったのだと思う。

その銀座に着地する機会が訪れた。この前年に横浜赤レンガ倉庫、大阪駅にあるルクアイーレにお店をオープンし、名古屋JPタワー、仙台と全国にお店を拡げて行く店舗施策の中での事。

いつかは銀座

銀座の玄関口、多くの人がクロスする数寄屋橋交差点の角。切子をモチーフとした美しく個性的なビル、東急プラザが建設された。日本の建築の中では、挑戦的な建造物で、館内もシックなデザインに仕上げられている。

トップブランドが軒を並べる中、日本のものづくりをテーマにした6階の出店となった。6階フロアは、このビルの象徴的なインベントホール・キリコラウンジがあり、様々な歌手のMVの撮影にも使われる程に素晴らしい空間がある。当時はインバウンドが爆発的に伸びていた事もあり、日本を惜しみなく感じて貰えるお洒落過ぎるフロア。

このフロアにハコアの店舗では最大の面積を有する旗艦店として構えた。店内奥に天井までの大きな窓が設けられており、その窓からは銀座の街並みが感じられる。銀座らしく、ゆったりとした配置にこだわり、名入れの打ち合わせをするカウンターを一線に並べた。

銀座の空気と空間を楽しむ為に、カウンターの解放的な広さと高さを設定し、店舗奥に拡がる大きな窓とカウンターの関係性を強め、ゆったりとした時間が流れる事を目指した。これは、幾度となくお店を立ち上げてきた中で蓄積した店舗設計の集大成にあった。

店内でも銀ブラが出来て、ハコアのものづくりの背景も感じて貰えるよう小さなギャラリーというショーケースを設置した。

銀座にはギャラリーも多く、アートを好むお客様が多い事を感じていたため、商品を作る際の道具、鉋やのみ、角を並べるカッター刃やNC加工に使用するビット刃をショーケース内に並べ、ハコアの歴史や産地の紹介と工夫を重ねて魅せた。

店内にギャラリーを設置しようと考えたのは、NYへ視察に行った時に感じた想いからだった。銀座の出店を決めた直後に、アメリカ・ニューヨークからの出店の誘いがあり、ハコアはNYで必ずヒットするからと、心強い誘致を受けた。

嬉しいお誘いであったが、現地に行き痛烈に感じた事は、ハコアがこの場所で勝負するにはアート感が足りない。NYのような富裕層が多く住み、歴史や季節、風景を楽しむ人達は便利さよりもアート的な心のゆとりを感じる商品やブランドストーリーに価値を持つのだろう。

いつかは銀座
いつかは銀座

木の商品としてだけでは無く、ブランドとしての価値観をアートの要素を取り入れ高めて仕上げないと、この地では勝負できないと出店は見送った。

銀座はNYに似た空気感を持つ街でもあり、その空気感を楽しむ人々が街を散策する。NYと同じような一等地で感じた想いを銀座で試してみようと考え、店舗設計にその想いを取り入れた。ハコアがこの先も成長するには、アートとしての価値観を兼ね備える必要があるとの想いがあった。

いつかは銀座

銀座は、商売をする人には憧れの街であり、銀座に立つ事で何かが変わり、自身を更に成長させてくれるのではないかという期待もあり、「いつかは銀座」という言葉が生まれたのだろうと考える。

オープン時には、立地と話題の商業施設という事もあり、多くのお客様が来館され、多くの笑顔と共に銀座の空気を楽しめた。それは、他の土地とは全く違い、出店を果たし、地に足を付けていても憧れの中にあり、浮付く事の出来ない気の締まりを自分自身に持ち続けられる場所だとも感じた。

※2021年11月現在 6階から5階フロアへ移動。


私は、ハコアを立ち上げる前から、仕事を戴いた地で近くの神社を探して、「この地で仕事をさせて戴きます。宜しくおねがいします」と礼拝に行き、その土地での仕事が終わると「良い仕事が出来ました。ありがとうございます。」と御礼に行く事を欠かさないようにして来ました。

それは願掛けでも無く、神頼みでも無く、感謝する気持ちだけ。以前は、多くの人からのご支援や御恩をどのようにお返しすれば良いのだろうと考えた時に胸がいっぱいになり、お返しを出来ていない事に痛烈な罪悪感で苦しくなる事が常々ありました。

そんな時にある人から教えられた事は、「神社で手を合わせ、御礼を伝えるといいよ。神社ではお願いをしてはいけない。神社は御礼を伝える場所。その事でお返ししたい多くの人にも気持ちは届くよ。」という事。

それを聞いてからは、神社に行き、手を合わせ、所信表明を伝える。途中経過の報告、上手く仕事が出来た時には感謝を持って、御礼を伝えに行く。仕事で関わって来て頂けた沢山の人達への感謝を伝える事で自分自身が納得できるようになりました。

東京を彷徨い、Hacoaというブランドを立ち上げる前の頃、銀座にある会社から仕事を戴き、銀座に通う時期がありました。その仕事を依頼された後に立ち寄った銀座三越の屋上で、偶然に「銀座出世地蔵尊」という神社を見付け、「いつかは銀座で商売ができるよう頑張ります」と手を合わせました。屋上に神社があると知らずに出逢った偶然にも感謝しました。

東京にお店を持って5年程度で、その時に伝えた想いが現実になるとは思いもせずに自分自身でも驚いています。出店契約が成立した際も、内装工事が始まる際にも、オープンの前日も銀座三越屋上の神社に御礼に行きました。

その時には「私に関わる全ての人を幸せに出来るように」と、手を合わせ、自分自身に誓いました。それが私の銀座で、私の感謝を伝える仕方になっています。感謝の心があっての商いです。

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