ドリームファクトリーの完成

2008年 ドリームファクトリーの完成

棟上げから半年後の10月、ハコアが目指したドリームファクトリーは完成し、ようやくHacoaの看板を掲げる事が出来た。

建設中は、自身が毎日のように現場に足を運び、現場の職人さん達と何度も相談を重ねた。毎日少しづつ出来上がって行く現場で、ハコアのスタッフ達が楽しそうに働いている風景を想像するのは至福の時間でしかなかった。

敷地面積は600坪余りに。総延床面積は240坪。当時の社員6名で使うには贅沢過ぎる社屋だった。駐車場からは、建物の中を歩き回り仕事をしている私達の動きが見えるように、前面ガラス貼りのファサードにした。それは、田舎では挑戦的な建物となった。

前面をガラス貼りにした理由には、これまでの伝統の見え方を変えたかったというのもある。以前、ある企業に飛び込み営業した際に、「漆器?あの暗い裸電球の下で塗ってる仕事だろう」と、冷やかし笑われた事があった。そのように言われた時は腹を立て、席を外し帰った。電球の下で塗るのは、塗った漆に付いた埃を逆光で見分ける為で理にかなった事だが、一般の人から見れば、そういう風に見えるんだなと、後から理由を伝えきれなかった自分に悔しさもあった。

木地屋さんとしても、木の割れや反り、変色を避ける為に窓を少なくした工房なのであり、何も暗い所が好きで、暗い所でしか出来ない仕事では無い。当時は業務が拡がる中で、工房隣に空いていたガレージを借りて、機械を詰め込み即席の工房としていた。陽の当たらないガレージにボロ小屋の中で仕事をして来た私達が、陽が燦燦と降り注ぐ解放感の中で仕事をする事は、春に動物が冬眠から目を覚まし地上に出たかのようで、夢心地なものになった。

新社屋と併設した既存の倉庫も作業場に造り変え、現場の敷地を拡げた。これまでは、狭い場所でスペースを譲り合って仕事をしていた事が嘘のように一人が占有するスペースが十倍近くにも増え、機械も使い放題の環境に胸が高まった。

多くのお客様を案内していた薄暗いボロ小屋内のギャラリーは、自然の光で木目の美しさを楽しめるショップとして商品を並べる事が出来るようになり、引け目を感じることなくお客様を心からお迎え出来るようになった。

眺望豊かな2階には、オフィスと組立作業場。これまでは、共有で使っていたパソコンや机が一人一人に与えられ、自分専用として持つ事が出来た事で、クリエイトな業務が集中力を高め、スムーズに行えるようになった。窓から見渡す雄大な山々と自然が拡がる田畑を眺めながら、理想的な空間の中で業務は気分も明るく常に笑顔が溢れていた。

ハコアというブランドを育てる仕事をする為、若者に技術継承をして行く為のドリームファクトリーと言っても申し分ない出来栄えと環境に仕上がり、意気揚々であった。

そのスタイルは、伝統工芸の産地である田舎では逸脱していていると、一気に話題となった。その話題は全国へも拡がり、TV番組の取材が増えた。それに伴い、県外からのお客様も増え、ハコアで働きたいという若者が全国から殺到する事になる。

ドリームファクトリーの完成

ドリームファクトリーの完成


これまで、多くの方々から形(なり)を見直せと良く言われました。これまで培った知識や見識を見直す事。染みついた伝統という見え方を変える事は、相当な勇気も必要でしたが、変わる事で得たものは多かった。ブランドとしてお客様を迎える姿勢をつくる事は、働くスタッフの意識を高める事になり、自分達の知識、能力以上の事を行動に繋げることが出来ます。

自分達が持つ環境を見直し、関わる全ての人により良い環境を提供する事で、ハコアとしての理念や信念がブレのないものとなり、成長のスピードが加速する事になりました。

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