2017年 木の箱が建つ

この年、福井本社社屋の前にANNEX(別館)が建った。それは、ハコアを創設した時からずっと描いていた木の箱といえる象徴的な建物。

2008年に本社社屋を竣工した頃は、延床面積240坪を6名のスタッフで使っていた社屋がこの数年の業務拡大で7倍超えの44人になっていた。空いているスペースを工夫し何とか使ってきたが、流石に限界が来た。

いつかこんな事態が来るだろうと思い、数年前から描いていた図面を10月に建設会社に渡したところ、直ぐに施工に取り掛かって貰えた。1月の棟上げから3か月で建ち、仕上った。

3か月振りに来た多くのお客さんは、突然に建物が建っていて、びっくりしたと口を揃えた。それはそうだろうと思う。棟上げから完成までは、私達も見ていて驚く程に早かった。

新しい社屋は箱型で、壁は板貼り。Hacoaとブランド名を名付ける際に重箱をひっくり返し、底を指で叩く。コンコンと心地よく反響する音を聞き、心地よいHacoという空間を創り、その空間に+αをという想いを実物にした。

窓は少な目。旧社屋は前面ガラス張りにした事で景色も良く、明るかったのだが、女性スタッフからは日焼けすると、評判がかなり悪かった。スタッフの8割が女性で文句の出る職場であってはいけないと思い、ほぼ壁とした。その分、木板の壁は多く貼れた事で象徴的な建物になった。

木の箱が完成

壁に貼った木板はレッドシダーというアメリカの針葉樹。ハコアの商品にはほとんど使わない木だが、色目も良く、エイジングの美しさもあり、木らしい持ち味を持った材のため、外資系ホテルからの企画依頼の際は良く提案し、採用して貰っている。そのレッドシダーの丸太を購入し、壁板を製作した。表面は仕上げず、鋸の目が残ったままのラフな仕上げにする事で、観る角度によっては、光が屈折し、彩度が変わる。

一枚一枚の板に個性が生まれ、色目が不揃いである事が却って美しさを引き立てる。木は経年変化の中で色がくすんで来るが、それがまた良い。時が経つ程に味わいが深まる。

木の箱が完成 木の箱が完成

入口は正面では無く、建物横のスロープデッキを歩いた先に配置した。それは、スロープデッキの横には大きな欅とブナの木のトンネルが木漏れ陽を落とし、春には新緑、秋には紅葉のトンネルになる。

スロープを歩いていると工場の木を切る音が聞こえる。お店に入る前に工場の作業を体感し、ものづくりを感じて貰う為のちょっとした散歩コースを作った。

その入口には、これまで幾つものホテルや商業施設のサイン企画を行ってきたノウハウを活かした誘導サインを設置した。木の壁、デッキスロープと木のトンネルの中にさり気ないサインを設置した景観を気持ちいいと感じた方の推薦があり、この年、福井県の景観大賞を戴く事になった。

デッキスロープを登った先はハコアダイレクトストア福井店となっている。これまで福井店だけが全国のお店とテイストが違っていた。丸の内店から石鉄木という素材で統一し、電球色の温かな光の空間を造り始めたが、福井店はその前からあったお店だった。

全国のお店からハコアデビューしたお客さんは福井店に来ると、本社なのになぜ?とよく口にしていた。ハコアのスタイルが認知されていくに従って、それと違うスタイルであるとがっかりさせてしまうようだ。そんな反省から他のお店と変わらない統一感を持って仕上げた。

お店の中には、本社だからと、ちょっとした資料館的な棚を作った。お膳大工時代の御膳の木地と現会長が受勲した紫綬褒章の勲章が展示され、ハコアの代名詞となった初代木ーボードから歴代の展示に、カスタムジャケットのガラケーなどのハコア創成期の商品を展示している。

2階はオフィスでオンラインの受注と経営管理業務を行っている。
3階には社長室を置く予定であったが、社長は本社に滞在する事も少なく、会議室兼研修室となってしまった。そのお陰で様々な業務が緻密に行われ、格段に業務の精度が上がった事もあり、社長室を取り上げられても仕方が無いと納得している。

ANNEXである木の箱は、私達ハコアの原点であり、新たなステップに入る為の秘密基地のようなもの。新たな象徴の中で働くスタッフ達の意識は高まった。


急成長の中でスタッフが増え、業務に支障が出る程に手狭になった事で新たに建てる事を決断したHacoa-ANNEXは、ハコアの原点を顧みる象徴的な建物になりました。スタッフ達は自分達が働く環境の中に自分達の会社の原点があり、その中で常に働く事に誇りを持っていると感じます。

今年は竣工から4年が経ち、木の壁を職人達で塗り直しました。真夏の猛暑の中で足場を組み、木の板を金ブラシで磨き上げ、下地塗料、防水塗料と3日間を掛け、職人の皆で仕上げました。竣工した当時の顔とはまた違った仕上がりにも満足できるものとなりました。

初めての高所の作業にも関わらず、皆が手際良く作業を行ってくれ、熱い中でも弱音を吐かず、皆で相談しながら作業の仕方を考えて行く姿を見ていると、流石は職人の集団だな、成長したなと涙が出てしまいました。

自分達で行おうと決めたのは、自分達で仕上げる事で象徴的な建物を毎日のように気に掛け、見上げることになるから。自分の作業したところは誰しも気になるものです。そんな想いが帰属意識を高め、社員全体で象徴を造り上げて行く。会社の看板を磨くには象徴性を会社全体が共有し、築き上げていく事が必要です。

象徴を掲げる事でスタッフ達の意識が高まるだけで無く、ハコアのものづくりを観たい、ハコアの本社に行ってみたいと県外から多くのお客様がお越しになるようにもなりました。

これまでも土日祝日等は駐車場に県外ナンバーの車がずらりと並んでいましたが、更に多くの方々がこの田舎にまでお越し戴けるようになりました。Hacoaのサイン前では、記念写真を撮られるお客様も多く、そんな遠くからお越し頂いた方々に、ゆっくりして貰えるスペースやワクワクするサービス等、何か出来ないかと思索しています。

その一つとしてスタッフ達で考え始めた、鉛筆つくりやスツールつくり等の木工ワークショップを定期的に開催しており、告知すれば県外からも予約が入り、常に席が埋まる程に人気になりました。現在はコロナ感染拡大防止もあり、開催中止となっていますが、終息した際にはまた再開したいと思っています。

その他にも全国からの工場見学を希望する方々が多くなり、毎日のように申し込みがあります。ものづくりの魅力を伝える多くの事がこの箱に詰まっており、これからもスタッフと共に詰め込んで行けたらと思っていますので期待して下さい。

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