木製デザイン雑貨Hacoaのブランドストーリー

ものづくりで今日を描くハコアの周辺

Hacoaのブランドを包む独特の「空気」を様々な側面から切り取ってお伝えする、この「Haco-air」 つくり手の素顔、商品に込められた想い、伝えられる技についてなどをお届けします

取材/株式会社真空ラボ

Way.4「伝統と先進を操るつくり手の現場。」

掲載日/2012年01月

Way.4「伝統と先進を操るつくり手の現場。」

工房の傍にいると聞こえてくる音があります。それは、いわば木と製造スタッフの対話みたいなものかもしれません。

デザイナーによって描き出されたアイデアを、木との語らいの中で、緻密かつ丁寧な作業によって「かたち」へ仕上げていきます。今回は、商品製作工程の中でも、主な作業をピックアップしてご紹介します。

チーフを中心に商品を製造するスタイル。

Hacoaでは、愛着を育む木製雑貨を追求しながら、同時にできるだけ多くのお客様へ応えるために、製造工程の仕組みについても常に最善の内容を探求してきました。「伝統技術と先進機械の融合」は、弊社だからこそたどり着いた独自のスタイルといえますね。

効率化を求める工場の流れ作業とは違い、職人的な工房であることが、作る楽しさを追求した独自のスタイルを生み出しています。

商品製造の主な流れとしては、まず商品ごとに製造管理者として選ばれたチーフが中心となって、製造を進行するハコア独自のシステムを採用しています(Way.1参照)。

現状の在庫を踏まえながら納品日から逆算し、各工程の段取り、作業に必要な人員確保・配置などを決定していきます。スタッフの配置については、それぞれの得意・不得意分野に配慮した適材適所の考え方が欠かせないため、チーフにはスタッフが持つ技量の把握が必要です。

誰でも出来るような内容であっても、「慣れるまでに時間がかかること」や「すぐ覚えられること」などに細かく気を配ることが求められます。それでは、主な工程をご説明していきましょう。

チーフを中心に商品を製造するスタイル。

木を活かしながら品質と効率を向上させるプロセス。

Process.1:木取り

「木取り」は、製品の良し悪しをも左右する大事な作業です。これから作る製品に合う木材を選び、木目を読んで行くわけです。当たり前ですが、丸太や長板はそのまま木製雑貨に用いることはできません。

この後、直角や厚み、垂直、水平を出し、割ったり、面取りしたりと、組み立てまでに数多くの作業を行っていきます。加工にふさわしい部分を1本の木から選ぶわけです。

また、柔らか過ぎる部分をはじめ、黒色・白色がかっている箇所やシミの部分を省きながら選別していきます。マグロの解体に例えれば、トロの部分だけ使うようなものです。

この作業には木との綿密な会話が必要となります。この話し合いが的確に行われなければ、材を無駄にし、大きな損をするだけでなく、商品の仕上がり感に大きな影響を与えます。

木取りの工程では、材としての善し悪しを見分けるためのスキルが求められると同時に、選ぶ基準を統一する技術も必要となることから、チーフが自ら一人で担当することが多いです。

代表の市橋が入門した頃は、入社後1年以上は木取りをさせて貰えなかったそうです。とても重要な作業を任されていることに、大きな責任を感じながら取り組んでいます。

もちろんこの後の工程でも、最終的な美しさへたどり着くために、木と向き合い、繊維の流れを読みながら、多様な作業を行っていく道のりが続きます。

木取り

Process.2:NC

NCは「Numerical Control machining」の略。数値制御でコントロールする工作機械での作業を指します。

簡単に言えば、加工する図面の内容をプログラム入力し、工作機械によって制御された刃物やドリルなどによる加工が行われる仕組みです。NC加工には、高度な技術を持った職人でも出来ない加工を短時間でバラツキなく均一のクオリティを保ちながら製造できるメリットがあります。

ただ、機械に依存できるわけではありません。木材という自然物が対象となるので、プログラム入力を行う際には、反りなどをあらかじめ踏まえて気温や湿度、樹種に合わせた微調整を行うことがポイントとなります。

コンピューターにて制御されたNC加工機は便利ですが、道具のひとつでしかなく、NC加工で完結することは全くないのです。他商品と密接して緻密なサイズ調整が求められる場合(部分)はNC、異なる表情が個性となる場合(部分)は人の手による加工、といったように弊社ではNCと手加工それぞれの強みを生かして使い分けています。

磨きや仕上げは全て私達の手で行います。Hacoaの商品に職人的な温もりが残っているのは、私達の想いが込められた手による仕上げを行っているからです。

NC

Process.3:手加工

昇降盤(盤から丸鋸が顔を出した電動工具)を使って行うカッティングなどの作業を指します。「NCでやらないの?」と疑問を持たれる方もいるかもしれませんが、人の手で行ったほうが効率性と精度を高められる場合に、手加工を選びます。

例えば「木製iPhoneケース」の側面にある丸みの面取り。NCで造り出した角に対し、刃を斜めに設置した昇降盤を使って削ることで、スピーディー且つ細かく丁寧な仕上がりが望めます。

ボタンを押して自動で動いてくれたら本当に楽だと思いますが、このひと手間が製品の良し悪しに大きく関与するのです。

どこまで機械で行い、どこまで人の手を入れるか?現場では常にディスカッションが行われています。

美しく仕上げることと同様に、弊社で重視しているのは安全面です。特に危険を伴う工程である手加工のプロセスにおいては様々な方向から注意を払っています。

まず、基本として各機械のメンテナンスを常に実施。また、刃物からできるだけ手を遠ざけるために様々な治具(じぐ)を用意しています。

さらには健康管理も危険回避のひとつです。現場では多様な要素を見つめながら安全が図られています。

手加工

Process.4:組み立て

成形の完了した材同士を接着材にて貼り合わせる工程です。重箱「Ju-baco」やメモブロック「Memo Block&Tray」など数多くの商品の製造で必要となります。2人組のユニットによって行われ、ヘラを使ってボンドを塗る人と、材を組み合わせてバンドで固定する人に役割を分担して進行。

これは相方仕事と呼ばれ、二人の意気が合わないと進まない、本当にストレスを感じる仕事になってしまいます。相方の動きを見て、先を読み相方が仕事をし易いよう気を配りながら進める事が大事な作業です。

接着固定した材は、通常1日、短い場合で半日ほど寝かせて作業は終了します。貼り合わせで求められるのは、つなぎ目が見えなくなるほどの高い整合性です。弊社では慣れたスタッフがボンドの量を微調整しながら接着を行っています。

バンドの固定についても、ずれないように気を払っています。正しく密着していないと隙間が出来てしまう可能性があります。

組み立て

Process.5:面取り、仕上げ

最終的な工程として面取りという仕上げを行います。これは、各商品の特性に合わせ、角面を滑らかにする作業です。

サンドペーパーや鉋を使い、手で触った際に違和感の無いよう丸めたり、糸面と云われる凛とした仕上げを行ったりします。この作業は、商品の特性を熟知し、センスを持って取り組まないと、最後の最後に商品を駄目にしてしまう可能性をはらむ大事な大事な作業です。

地味で手間が掛りますが、商品の良し悪しがこの工程で決まるという緊張感が、コツコツと進めなければいけない作業に充実感をもたらしてくれます。

面取り、仕上げ

Process.6:塗装

木材は塗装をする事で発色します。塗装を施す前は艶の無いあせた色合いだった木材が塗装を施すことで、生き生きと潤いに満ちた表情に変わります。

塗装を行うメリットは主に3つあります。「木の反りを抑えること」「手垢の付着防止」「耐久性の向上」です。長く愛される商品を提供するために欠かせないプロセスといえます。

Hacoaの商品のほとんどはこのウレタン塗装を行っています。ウレタン塗装であっても、艶を抑えた自然な風合いを残す特製の塗料を用いることで、「自然の艶」へのこだわりをかたちにしています。

「この商品、塗装してないんですか?」と疑問を持たれるくらいに自然の風合いを保っています。非常に手間を掛けた、二層の厚い膜によるウレタン塗装が商品の品質を大きく向上させているのです。

ただ、二層の膜も、使い込む頻度によっては次第に薄れていきます。この場合、蜜蝋を塗り、膜を再生させることで再びメンテナンスの効果が生まれます。塗るほどに木の表情が変わり、メンテナンス作業が楽しめるので、気に入って頂いた商品と長く付き合うためにも、蜜蝋ワックスをメンテナンス材としてご利用頂く事をお勧めしています。

塗装

製造の力でアイデアを向上させていく楽しさ。

基本的に上記の流れで製造は行われていきますが、商品に合わせて臨機応変に段取りを構築しています。常に進化していることは間違いないです。後の流れを予測しながら逆算して工程を設計するので、想定以上にきっちり進行した際には達成感がありますね。

逆に、やってみて初めて新しい方法や手法を発見した時も嬉しさがあります。未体験の樹種の使用など、挑戦してみるとまだ見ぬ可能性と出会えたりするんです。効率だけを求めていたら遭遇できない体験ですね。

また、デザイナーから求められる内容に対して、難題に応えたり、スピードや品質などさらに向上させたりすることができた時には手応えを感じます。現場ならではの感動といえるのではないでしょうか。

与えられる仕事をこなすだけでなく、常に学ぶことが求められる日々がとても楽しいです。

製造の力でアイデアを向上させていく楽しさ