Hacoaのブランドを包む独特の「空気」を様々な側面から切り取ってお伝えする、この「Haco-air」 つくり手の素顔、商品に込められた想い、伝えられる技についてなどをお届けします
取材/株式会社真空ラボ
語り手/代表・市橋人士 ディレクター・青山謙二
掲載日/2012年04月
半世紀という気の遠くなるような時間を超えて、新たな展望への躍進を着々と開始しているHacoaブランド。ものづくりの意志が見つめる理想とは何なのか。そのために振り返らなければいけない現実とは何なのか。
今回は、夢と理想を形へと変えるためにクリアすべき目標と、目標達成への道のりを支える取り組みや考え方についてお届けします。
市橋/雑誌、テレビのインタビューや講演で、よく「展望は?」と聞かれます。私はその度に、理想と現実についてお話しています。
結局、何か夢を成し遂げていく道のりは、理想と現実の繰り返しでしかないんですよね。無理にでも理想を抱えて前進していかないと何も生まれない。
「理想を掲げる」というのは、仕事を行う上で最も大切な作業だと思います。また、理想は「頑張れば叶うかもしれない」という内容であることがポイント。懸命にジャンプすればいつか届くかもしれない、と感じるレベルの理想が、お客様を想って仕事を進めていくための目先の目標になり、力になります。
そして、理想を掲げる場所は高ければ高いほど良いですね。理想はいわゆる、象徴の旗ですから。
青山/その理想を現実にするためには、ジャンプするための足元をもっともっと固めないといけないと私は考えています。
私は10年前、外部のグラフィックデザイナーとしてHacoaのロゴを制作し、様々なブランドイメージ作りに協力させてもらい、数年前よりHacoaへ途中参画しました。
途中から入ったおかげで、従来から所属するスタッフよりも、Hacoaブランドに対して客観的な視点を持つことができているように思います。ちょっと外から見つめると、さらなる進化を遂げるために、クリアしなければいけないことが見えてくるんです。
私としては、客観的視点とこれまでに培った「伝える」技術を駆使して、Hacoaブランドの理想が形になる道のりを支えていきたいと考えています。
市橋/私はいつもスタッフに言っているんです。理想を形にするためには、いくつもの細かい目標が必要だと。「1時間後までにやるべきこと」から始まり、3時間後、半日後、1日後、3日間後、1週間後、1ヶ月後、半年後、1年後、3年後……というように、どんどん長いスパンで捉えていく。
一つ一つ達成感と反省を覚えながら乗り越えていくことで、いつか大きな理想を形にすることができるんです。
会社全体としても、具体的な目標を立て、一歩一歩、地道に頑張っています。高すぎると言う方がいるかもしれませんが、理想は「世界が知る、日本を代表する木工ブランド」ですから。
では、私たちが理想を形とするために達成すべき目標に据えている内容について説明させてください。
市橋/Hacoaは、伝統技術を継承するために立ち上げたブランドでもあります。越前漆器は今や昔のような隆盛を誇ってはいませんが、連綿と受け継がれてきた技術と知恵は、産地で確かに息づいています。
木地師の志を持つ会社としては、伝統技術をものづくりに活かしつつ、これから先の未来へ繋いでいくことは絶対的な使命です。 ただ、技術の継承は多忙な中でのみ行われます。木目を見つめ、香り、音、触れた感触を研ぎ澄ませた瞬間を作り上げるには、時間と質に切迫された空間が必要となるからです。
緩やかな時が流れる場所は、継承の舞台に適していません。私たちが、毎月、Hacoaブランドの商品ラインナップを増やし続けている理由の一つは、ここにあります。
青山/このようなカタチにて伝統技術が継承されていくことは、しっかりと伝えていくべき。その役割を担っているのが小冊子「HACOACT」やこの「Hacoair」を含むウェブサイトコンテンツなどのメッセージツールだと思っています。
そして、伝統技術の継承については、伝える対象は二つあると私は考えています。一つはHacoaブランドを支えて下さっている多くのお客様です。伝統を守る意志を伝えることは、商品に通う一つの意志を感じてもらうこと。私たちと一緒にHacoaブランドを育ててくれているお客様に、私たちの存在意義を説明する機会となります。
もう一つの伝えるべき対象は、Hacoaスタッフです。伝統技術の継承を客観的に眺められるツールが、自分たちが背負ったものを再認識させてくれます。
市橋/いつの時代も、どんな業種でも、ものづくりの出発点であり基本は、「あの人を喜ばせたい」という気持ちです。
逆に言えば、「喜ばせたい人がいるから、つくる」。私たちは、最も大事にしているキーワードの一つとして、商品づくりの各工程に必ず反映させています。
「お客様の喜ぶ顔」を基本とすることで、企画から製造、販売に至るまでのプロセスに、果たすべき様々な課題が生まれます。常に生まれる新しい課題を解消するために、決して妥協せず、デザイン性や技術性、創作性を、日々、向上させています。
青山/私としては、この目標を達成するために、お客様が「商品を受け取ってからの時間」に対する作業も行っています。
最近で言えば、例えば商品のラッピングをご注文頂いたお客様に、商品が入るちょっとおしゃれなクラフトの手提げ袋を添えてお送りしています。贈答品として当然のサービスだとは思いますが従来は行っておりませんでした。
また、特別なラッピングとして、期間限定でウォールナットをくり抜いて作成したオリジナルタグをご用意したりと、小さな事ですがお客様に喜んで頂けるような仕掛けを日々考えています。
また、商品が持つ背景を伝える取り組みも開始しました。例えば、「素材が出来るまで」や「工房での作成風景」など、商品の持つ隠れた物語を「見える化」すること。
お客様により商品への愛着を膨らませてもらえる一つのきっかけになると信じています。 その一つとしてtwitterやFaceBook、インスタグラム等のSNSツールを使ったりしています。
市橋/働く人の環境に対して投資をしていくことは、ものづくりの現場にとって必須です。ものづくりとは、言ってみれば、手作りのことです。つまり、必ず人の感情が介入します。
もし作り手がイライラしながら製作すれば、その気持ちは商品に表れてしまう。逆に気分良く進められれば、作っている本人が納得する気持ちの良いものができます。
きっと、商品を手に取ったお客様の心に訴えるものへと仕上がるでしょう。スタッフが気分良く作業できるように環境を整える作業は、商品の品質向上に欠かせない課題なんです。効率化や合理化については、その次です。
青山/私が推進しているのは、その「効率化・合理化」の部分です。商品になるモノができあがった時の、パッケージングを始めとしたよりスムーズな流れづくり、チェックする体制の厳密化など、従来のシステムをさらに強化しています。
いわば、システムとしての環境づくりです。商品には反映されにくいことですが、整えられた環境は、良い商品をちゃんと良い商品のままお客様のもとに届けてくれます。
市橋/そうですね。良いものづくり環境と良いシステム環境が一体化された時、必ずや商品のクオリティは上がる。
そういえば、最近、製造スタッフをつれてウォールナットの原木の製材現場に行ってきました。従来、商品に用いる素材については、私がすべて行っていたので、スタッフたちにとっては「いつも現場に用意されているもの」でした。
今回は、購入した丸太に対して行う「製材」をスタッフたちの手で行いました。丸太を見て、まず「胴割り」と云われる加工を施します。文字通り丸太を真半分に割る作業です。
この「胴割り」の際に鋸を入れる場所を間違えれば、「応力」という自然の力によって、意図しない方向に亀裂が入り、高価な材が駄目になってしまいます。
この最初の作業は、棟梁である製材所の親方に託しますが、その後にバトンを渡された「さばき」は私が行っていました。「さばき」とは、「胴割り」された丸太の中身が適材になるよう、初見の段階で厚みや木目の選定を行って製材職人さんに切り出しのサイズを指示することです。マグロの解体と同じようなもので、物凄い緊張感が漂います。
商品のサイズを全て把握していないと、材料を無駄にしてしまう可能性があります。木の目を見て、割れない場所を選び、縮むことを計算しながら適所を選んで木取りする工程は、非常に難しく、経験を積まないとなかなかできませんが、経験を積むためにもあえてスタッフに任せました。いつの日か世代交代をしなければならない日が来ることは間違いないので、1日も早く経験させた方が良いと思っての判断です。
乾燥のため、一年間寝かせた後、自分の手でサインした材が会社に届いた時には、スタッフたちはきっと素材に対する格別の思いを抱くはずです。その感動も、お客様に必ず伝わると確信しています。
そういった、意識を高める環境づくりを行うことも投資の一部であり、私が割り切った決断で行わなければいけない仕事だと考えています。
市橋/18年前にイタリア、フランス、オランダの3ヶ国を回って、初めて外側から日本を見つめた経験があります。海外のデザイン性に触れながら「いつかは漆器で、海外を舞台に勝負したい」と思いました。
生活文化は異なりますが、漆器は古来より装飾として認められてきた歴史を持ち、かのマリー・アントワネットの美術コレクションにも漆器が存在しました。私は「装飾品としてなら立ち向かえる」、と考えていたのです。
あれから時は流れ、漆器は衰退の途をたどってきました。しかし、この10〜14年間ほどでインターネットの環境は劇的に進化し、国内外問わずに情報を入手でき、海外の人への発信も容易になりました。ウェブサイトやSNSを介して海外からの問い合わせが、毎日多々あるのが現状です。
インターネットの普及とグローバルな環境のお陰で、ものづくりは大きく変わり、売り込まないと駄目だった状況から反して、現在は、Hacoaブランドが海外から求められていることを強く実感しています。
近い将来は、インターネットだけでなく、海外に拠点を設けて、日本の新しい伝統工芸の形を伝えたいですね。
Hacoaは漆器の産地に育てられた、産地に息づくブランドです。産地だからこそできるものづくりを発信できると考えています。
新しい形になったとしても、大事なのが「有用性(ユーザビリティ)」であることは変わりません。
まず何よりも、使いやすく普遍的であること。伝統に支えられたものづくりの本質がHacoaブランドを備えるデザインの基本です。私たちのデザインと考えが海外で通用するか、理解してもらえるか? とても楽しみですね。新しいブランドが生まれると予感がしています。
青山/考えただけでわくわくしますね。海外への展開は、ぜひ達成していきたい目標です。そのためにも私は、情報発信の隙をなくしていきたいと考えています。今まで、不足していた情報発信として挙げられるのが「日本の越前で作られている」という事実です。
これ、意外に思われるかもしれません。でも、事実、中国で作られていると思い込んでいる人がいないわけではないんです。「わかってもらえているだろう」というのは、発信する側の怠慢。受信する側は、何となく見たり聞いたりしているので、しっかり伝えないと伝わりません。
商品や各メッセージツールにおいて「Made in japan」と明記することをより徹底して行っています。
市橋/私たちHacoaのHacoは空間を意味します。「Hacoaが作り出した空間に、空間が必要とするHacoaのアイテムを開発し、並べる」。これは本来私たちが追い求めてきた姿でもありますから。
今後、つくりあげていく過程では、私たちがものづくりで重要視してきた五感への認識も、改めて見つめ直したいと思っています。動き始めた構想は実際のスタートが何年先になるかはまだ明言できません。でも、ぜひ実現したいと思っていますよ。
青山/新しい展開を行う際には、育んできたブランドのイメージが崩れないように配慮することが必要だと思っています。今のHacoaブランドを大切に想ってくれている多くのお客様が、困惑しないように情報発信を行っていかなければと考えています。
具体的には、ウェブサイトでのインフォメーションの方法や、各メッセージツールに掲載するデザインやトーンの整合性など。できるだけ明確かつわかりやすくしていきたいですね。その上で、お客様とともに新しい展開を歩んでいけることを望みます。
※各注文方法でサービス内容が異なる場合がございます。
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